2016年9月29日木曜日

興味深かった日本鳥学会・札幌大会

今年度の日本鳥学会大会は、916日(金)~19日(月)まで、札幌の北海道大学で開かれました。広告まで入れると300ページを超す講演要旨集には、59題の口頭発表、125題のポスター発表、19題の高校生(小中学生)ポスター発表、19題の自由集会、受賞講演、公開シンポジウム。それに新企画の「プレナリー講演」が2題と盛りだくさんのプログラムが記されていました。参加者は500名を超え、最終日の公開シンポジウムはほぼ満席でした。
当会が主催した自由集会については、824日付ですでに本ブログで報告しました。ここでは全体的なことを紹介します。まず、第一にあげられるのは、会場が点在し、参加者の多くが道に迷ったこと。これまでの日本鳥学会の会場は、コンパクトでとりあえず受付に行けば、どこで何をやっているのかわかるものでしたが、今回は受付と自由集会の会場が、地下鉄1駅分くらい離れていて戸惑いました。第二は、現代日本でもっとも関心の大きい「高齢化」があまり感じられなかったこと。かつてのように“若者の台頭”という雰囲気ではありませんでしたが、60歳代以上ばかりといった状況ではなく、20歳~40歳代の発表が多く、鳥の研究は、少なくとも今後数十年躍進していくだろうと予測できました。
私見では、ポスター発表に興味深いものが多く、発表者とのコミュニケーションも取れ、満足できるものでした。高校生発表もレベルが高く、充実していたとのことですが、時間が取れず今回はパスしました。〔発表を聞かれた方は、本ブログに感想をご投稿ください〕
最終日に行われた公開シンポジウム「恐竜学者の鳥のはなしと鳥類学者の恐竜のはなし」は出色でした。講演者による話の内容も、従来の鳥学界とはちがうアプローチで“笑い”も出るような楽しい雰囲気だったことと、何より参加者に“小学校低学年”の親子連れが目立ったこと、そしてその子どもたちが何人も堂々と質問したことです。

残念ながら、その中味は“恐竜”についてばかりでしたが、日本鳥学会大会に子どもたちが食いついてきたことは、今後の運営にひとつの示唆を与えたことで重要と思いました。(川内博)

講演要旨集

シマフクロウが脚にとらえた“鳥”は、羽毛恐竜・アンキオルニス Anchiornis

2016年9月24日土曜日

日本鳥学会2016年度札幌大会自由集会終わる

9月16日に札幌の北海道大学でおこなわれた日本鳥学会2016年度札幌大会にて、カラスのねぐらをテーマとした自由集会を開催しました。
学会初日でしかも平日金曜日の夕方という時間設定なうえ、さらに指定された会場が非常に分かりにくかったこともあり、どれだけの方に参加していただけるかと心配でしたが、30名もの方にお集まりいただき、有意義な自由集会になりました。

前半は各地でカラスのねぐら問題にかかわっていらっしゃる3名と私の4名が話題提供者としてお話ししまいた。

トップバッターは地元札幌で詳細なカラスの観察調査をされているNPO法人札幌カラス研究会の中村眞樹子さん。ビルに囲まれた緑地や斜面林、鉄道林などにカラスのねぐらが形成されること、ロードヒーティングの影響があることなどのお話しでした。北の国ならではの特徴があるなという思いがします。大勢の人が利用する大通公園にもねぐらがあり、問題になっていない点が不思議でしたが、人が通る道の上ではカラスが寝ないため、糞が人にかからないので問題にならないということでした。



つぎに元鳥学会会長の中村司さんに、山梨・甲府の街路樹にできたカラスのねぐらについてご報告いただきました。甲府のかつてのねぐらはハシボソガラスのみが北部の山間部にあったが、2009年に駅前の平和通りのケヤキ並木にハシボソガラスがねぐらをつくりはじめ、糞が落ちるなどの社会問題になった。それにさきがけ2005年にそれまでいなかったハシブトガラスの2~3羽が電柱にねぐらを作りはじめた事実があり、東京のカラス対策で追い出されたハシブトガラスが甲府に来て、ハシボソガラスを誘導したのではないかという説を提唱されました。なお、現在も冬期に600羽ほどのハシボソガラスが駅前のケヤキ並木で寝ているとのことでした。


岩手大学の東淳樹さんからは「盛岡市広域圏におけるカラスによる被害とその対策」と題してお話しいただきました。ハシブトガラスに発信器をつけて行動調査を行ったら、意外にもゴミには依存しておらず、農業残渣を食物源としていたことが明らかになり、その対策がカラス対策になると進めていた。とくに畜産関連ではカラスが入らないような工夫をして効果をあげていたということです。しかし、なぜかその成果を無視するように行政は不必要なカラス追い出しを行い、かえって事態を悪化させたことの顛末を詳しくお話しいただきました。農家や行政との良好な関係を保っていくことの難しさが、カラスのねぐら問題をより困難なものにしていることを実感しました。



最期は、私が佐賀県佐賀市内でここ数年問題になっているミヤマガラスの塒問題について、お話しさせていただきました。ミヤマガラスは、海外で繁殖し日本で越冬する渡り鳥のカラスです。1990年以前は九州に渡来するに過ぎない比較的珍しい種でしたが、それ以降はどんどん越冬地が増え、現在では日本全国で見られるようになっています。さらに佐賀市では、街のど真ん中の県庁のある公園に約1万羽がねぐらをつくり、大量の糞を落とすなど大問題になっています。カラス対策は捕獲、ゴミの遮断、巣の撤去などが行われますが、ミヤマガラスにはどれも効果がないか、実施ができないなどの特殊事情があり、打つ手がないのが現状です。佐賀以外でもミヤマガラスの市街地ねぐらができつつあり、新たなカラス問題になりつつあると報告させていただきました。



後半のディスカッションでは、カラスのねぐらではなにが問題になるかが話題になりました。一番は糞で、人が通るか通らないかの違いで問題になるかどうかが決まるということでした。
また、ハシボソガラスのねぐらはあまり鳴かないので気がつかれにくく、ハシブトガラスがはいるとよく鳴くので目立ってしまい問題化するというお話しもありました。


また、生息数の制御について、ゴミは人のコントロールが可能ですが、農作物のコントロールはなかなか難しいので、どうしたらいいのだろうという課題が浮かび上がりました。

カラスのねぐら問題は、なかなか複雑な背景があり、解決できるものではありませんが、このような自由集会を実施することで地域別の事情や問題点の整理ができ、有意義なものになったと実感しています。
柴田佳秀